専欄

一部では「新冷戦」始まったとさえ…米中関係の現在 

 元滋賀県立大学教授?荒井利明

 米中関係が悪化の一途をたどっている。米国務長官のポンペオは先月23日の演説で、米国の歴代政権の対中関与政策を否定した上で、対中包囲網の形成を同盟国などに呼びかけた。

 この演説の特徴は、習近平を「破綻した全体主義イデオロギーの真の信奉者」と断じ、米中の対立をイデオロギー上の対立ととらえて、中国共産党による一党支配体制の転換を暗に唱えていることである。

 関与政策は米国主導で構築された国際秩序に中国を組み入れようとするもので、そこには「米国好みの中国」になってほしいとの期待も込められていた。中国外務省の報道官は7月24日、ポンペオ演説について、「イデオロギー的偏見と冷戦思考に満ち満ちている」と批判し、「中国には米国を変える意思はなく、米国も中国を変えることはできない」と述べている。

 トランプ政権高官の中国政策に関する演説としては、2018年10月の副大統領、ペンスの演説が有名である。ペンスはこの演説で中国を厳しく批判し、一部の識者は米中の「新冷戦」が始まったとさえ評した。

 だが、「新冷戦」という見方には否定的な意見も少なくなかった。米中関係はかつての米ソ関係とは異なり、イデオロギーの対立が深刻ではなく、米中間には経済をはじめ共通の利益が存在するというのがその理由だった。

 ペンスはまた、19年10月にも中国政策に関する演説を行っているが、ここでも米中のイデオロギー上の違いを強調しておらず、関与政策を否定しているわけでもない。

 このペンス演説とポンペオ演説の大きな違いは何によってもたらされたのか。この間の大きな出来事は、新型コロナウイルスの感染拡大、トランプ政権のコロナ対策の失敗、それによってトランプの再選が危うくなっていることである。

 トランプ自身は価値やイデオロギーより実益を重視しており、当面の最大の課題はいかにして再選を確保するかである。そのためには中国を「スケープゴート」に仕立て上げ、対中強硬姿勢を打ち出すことが自己の利益になると判断しているのだろう。その背景には、中国の台頭によって米国の覇権が脅かされている事実と、一定の米国民、とりわけトランプ支持者は対中強硬策を歓迎している現実があるといえよう。

 厳しい米中対立の演出がトランプの再選にどこまで寄与するかはむろん不明である。(敬称略)

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